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慶應イノベーション・イニシアティブ
代表取締役社長 山岸広太郎様×羽藤 晋 対談

2022.08.10
左:CELLUSION 羽藤 晋 右:慶應イノベーション・イニシアティブ 山岸広太郎様

セルージョンを支援する理由

山岸 私たちKIIのミッションステートメントは「その研究が、その発明が、そのイノベーションが、社会を変えるまで。」です。ベンチャーキャピタルとして、慶應義塾大学を中心とした、すべての大学や研究機関の研究成果を社会実装し、新産業を創出することで、社会の発展に貢献することをめざしています。
セルージョンがめざしていることは、私たちのミッションにフィットしています。角膜移植を希望している人に対してドナーが足りないという社会課題の解決には大きな意義があり、iPS細胞を活用する事業内容にも将来性があると感じ、投資させていただきました。慶應義塾大学医学部にもベンチャーを育成していく機運がありますね。

羽藤 眼科学教室の坪田一男教授を中心に、医学部からアントレプレナーを生み出すための勉強会をしていました。山岸さんがそこに講義でいらした際に、日本経済や医薬品産業の課題についてお話をしてくださり、知識の深さと視野の広さに感銘を受けたのを覚えています。
セルージョンを設立したのは2015年で、医学部に所属している教員がベンチャー企業を立ち上げた第一号でした。開発体制の立ち上げや組織の育て方、大学との関係性の構築など前例がなく、全てが手探りでした。私自身も眼科医なので、もちろん起業の経験はありません。そこで、事業計画書を書き、将来像をプレゼンテーションし、KIIに支援に入ってもらいました。

山岸 社会的な意義や技術力、慶應というバックグラウンドもある中で、社会実装するための最初の課題はチームビルディングだと感じました。医療関係者や大学など身内以外を広く巻き込むためには、分かりやすく説明することが大切です。理解し、共感してもらうことでチームができ、投資家も増えています。

羽藤 医学の学会での発表には慣れていますが、外に出て私たちのことを知らない人たちに分かりやすく価値を伝えることは初めての経験でした。その最初のチャレンジに必要な部分を支援してもらえたのは大きかったです。

山岸 ディープテック系のベンチャーが成功するためには説明力が重要です。特に未上場のフェーズでは投資家を募ったり、人材を採用するために医療の知見のない人たちにも自分たちがやりたいことを理解してもらわなければいけません。そのためにミッション、ビジョン、バリューを作ったり、信頼感を持たせつつエッジの効いたデザインのウェブサイトを作るなど様々な工夫が必要です。その辺りは今、うまくいっていると思います。

羽藤 ありがとうございます。投資家への説明の仕方や契約内容、他社との事業提携など立ち上げ期に必要なこと全般にアドバイスをもらえたのでスムーズに進行しています。起業家としてどのようにステップアップしていけばいいのかを教えてもらえたので、迷いなく進めました。
チームを大きくする過程で、セルージョンも自分自身も成長していると感じています。病院のように医療者を中心に仕事をするのとは違い、セルージョンでは様々な能力や価値観を持つ人たちでチームワークを醸成し、力を引き出していく必要があります。そのために、キーとなる人材の面接時にはKIIから入ってもらっている本郷取締役と一緒に面接をし、人を見る目も養わせてもらいました。やはり、ベンチャーは人材が命です。いかにいい人材を早期に確保していくか。その一番大事な部分をKIIにサポートしてもらえました。これからはさらにダイバーシティを意識したチームビルディングをしていくことになると思うので、視野を広げながら取り組んでいきます。

山岸 必要な人材をタイミングよく採用でき、目的に合ったいいチームができていると思います。社長の器が大きくなればなるほど、そこで活躍できる人が増えるので期待しています。これからは医療と直接関係のない分野の人も採用していく必要がありますね。

羽藤 おっしゃる通りで、これからはファイナンスやバックオフィスなどの採用も増やしていきます。ますます会社がめざすことを分かりやすく伝えることが大切な局面に入っていると感じています。

KIIとセルージョンが見据える未来

羽藤 角膜の病気で失明して、角膜移植が受けられない患者さまは全世界で1300万人以上います。一方、実際に角膜移植を受けられている人は約18万人です。非常に限られていて、世界の多くの人々は治療を受けられずにいます。水疱性角膜症は日本だけではなく、ヨーロッパや新興国でも患者さまが増えていくことが予想され、大きな課題になっていく領域です。

山岸 羽藤社長が医師として臨床経験を持ち、課題をリアルに把握しているところが支援を決めたポイントの一つです。例えば、患者さまに負担をかけないために角膜内皮細胞をうつ伏せの状態で入れるというお話がありました。机上の空論ではなく、具体的な成功のイメージを持っていたため説得力を感じました。慶應義塾大学全体にも言えることですが、基礎研究と臨床の両方に関わっていることは大きな強みですね。実際に想定通りのスケジュールで進んでいます。

羽藤 ヒトでの臨床研究を始める段階に来ました。今までは細胞の製造や動物実験の安全性を証明するなどの課題を解決してきました。今後は実際にヒトに投与して有効性や安全性を確認していく段階です。医療現場における実際の使用を想定した第III相試験まで一つひとつ課題をクリアしていきます。 世界各国の患者さまに対応できるように、細胞の製造や輸送、保管方法などの開発にも取り組んでいます。グローバルに対応できるように開発と治験を並行して進めている段階です。

山岸 セルージョンが組織として自走できるように、私たちは資金と人材面を中心に支援を続けてきました。順調に自走できるように育っているので、株主としては短期的にはIPOをめざしてほしいです。 そして、さらに海外の投資家にリーチすることも含めて、世界で勝負のできる体制を整えていただきたいです。私たちもそのための支援は惜しみません。
国ごとの規制をクリアするなど課題も数多くありますが、慶應義塾大学は京都大学と並んでiPS細胞関連に強く、世界で通用するサイエンスの力を持っています。グローバルビジネスとしても大きなポテンシャルを感じています。

羽藤 慶應義塾大学医学部の現職教員が自ら起業した第1号ベンチャーとして先頭を走ってきました。これからもパイオニアとして、慶應だけではなく日本を元気にしたいですね。さらに、医療界だけではなく経済界や社会全体を明るくする企業にしていきたいと思っています。

山岸 コロナ禍でモデルナなどのバイオベンチャーが社会的な課題を解決できることが明らかになりました。セルージョンはもちろん、日本のサイエンス全体も決して負けることのないポテンシャルがあります。しかし、日本のスタートアップ、特にバイオベンチャーはアメリカと比較すると調達金額、時価総額が1桁小さいのが現状です。セルージョンが世界で戦えるベンチャーに育つよう、これからも支援をしていきます。

この対談は2022年8月に実施しました。掲載内容は対談当時の情報に基づいております。

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